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ステーブルコインが当たり前になった世界で小売業が享受する3つのメリット

小売業の収益構造を根本から変える技術が現実のものになろうとしています。

クレジットカードや決済代行会社に支払う数%の手数料、複雑な電子マネー運用コスト、そして高止まりする国際送金の負担――こうした「見えない固定費」を、1円単位・リアルタイム・ほぼゼロコストで置き換える仕組みが登場しました。

ステーブルコインが解決する小売業界のイメージ

その鍵となるのがステーブルコインです。2025年10月、日本では円建てステーブルコイン「JPYC」が正式に発行され、国内でも法的に認められたデジタル通貨の時代が始まりました。

米国でも「GENIUS(ジーニアス)法」によりステーブルコインが国家レベルの金融インフラとして整備され、ブロックチェーンを基盤とした決済が急速に普及しつつあります。

この動きは、大手フィンテック企業を中心に、世界的にも広がりを見せています。決済大手のPayPalは独自ステーブルコイン「PYUSD」を発行し、StripeはUSDCを核としたインフラ提供を開始するなど、すでにグローバルな決済インフラの標準になりつつあることを示しています。

この変化は、小売企業にとって単なる新しい決済手段の導入ではありません。

利益率の改善、顧客接点の再構築、そして国際ビジネスへの扉の拡大という三つの革命的な変化をもたらします。

この記事では、ステーブルコインが小売業にもたらす実利と戦略的インパクトを、国内外の最新動向を交えて解説します。

目次

決済コスト革命|利益率を押し上げる新インフラ

小売業の経営を最も圧迫している構造的コストの一つが、決済手数料です。クレジットカードや電子マネーを導入することで利便性は高まったものの、その裏で発生する数%の手数料は、利益率を直接的に削り続けています。

ステーブルコインの登場は、この構造を根底から変えます。ブロックチェーン上で仲介業者を介さずに送金が完結するため、「ほぼゼロ手数料」で即時決済が可能となります。しかも、取引金額が増えてもコストが固定されるため、売上規模が拡大するほど効率性が高まるという特長を持っています。

この仕組みが、日本でも実現しようとしています。2025年10月に発行が始まった日本円建てステーブルコイン「JPYC」です。JPYCは1円単位での送金が可能で、コストは1円以下、着金まで最短1秒。JPYC社は「ノンカストディ型」と呼ばれる仕組みを採用しており、資産の管理はユーザー自身が行います。これにより、小売企業は金融機関や決済代行業者に依存せず、自社のアプリやECサイトに直接ステーブルコイン決済を組み込むことができるようになるのです。

ロイヤルティ革命|プログラム可能なお金が顧客体験を変える

ステーブルコインがもたらす本質的な変化は、決済コストの削減にとどまりません。

最大の価値は、お金そのものが「プログラム可能」になったことにあります。条件を設定して「自動で動くお金」を設計できるようになったことで、小売企業のロイヤルティ施策は、従来のポイントやクーポンの枠を超えた段階に入りつつあります。

たとえば、「3か月間で5万円以上購入した顧客に、1,000円分のステーブルコインを自動付与する」といった仕組みを、スマートコントラクトを使って構築できます。これはシステムがトランザクションを検知した瞬間に実行され、人の手を介さずに完結します。顧客が“得をする瞬間”を逃さないロイヤルティ運営が可能になるのです。

この構想はすでに海外で実現しています。米ニューヨークのレストランアプリ「ブラックバード」では、ステーブルコインUSDCを基盤に独自トークン「$FLY」を導入。来店や注文履歴に応じて自動的に特典を付与し、ブロックチェーン上でロイヤルティプログラムを運用しています。

顧客は還元をより高く評価し、企業は自動化によって運用負担を削減できる。ステーブルコインは、顧客との関係性そのものを再設計するための新しい通貨基盤となりつつあるのです。

用語解説:スマートコントラクト

スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で実行される自動契約プログラムです。

事前に定義された**「もしAという条件が満たされたら、Bという処理を自動で実行する」**というルールをコード化し、分散型ネットワーク上に配置したものです。一度配置されると、第三者による改ざんや停止が非常に困難になるという特徴があります。

契約の履行に銀行や弁護士といった仲介業者を必要としないため、取引の透明性、効率性、およびコスト削減が実現可能です。

グローバル化革命|国境を超える取引が日常に

小売業が次に直面する課題は、グローバル市場への対応です。越境ECや海外サプライヤーとの取引では、依然として国際送金のコストと時間、そして為替リスクが大きな障壁となっています。ステーブルコインは、この壁を劇的に下げる技術として注目されています。

ステーブルコインは、法定通貨と1対1で連動しながらブロックチェーン上で直接送金できるため、国際取引でも国内取引と同等のスピードとコストで処理が可能です。為替手数料も不要で、通貨換算を意識せずに円やドルの価値を維持したまま決済ができます。

実際、米国では2025年7月に「GENIUS法」が成立し、ステーブルコインが正式な電子決済手段として法的に認められました。これを追い風に、USDCやUSDTといったドル建てステーブルコインの利用は急拡大し、取引総額がすでにVisaカードの年間決済額を超えたと報じられています。

この流れに呼応するように、日本でも「JPYC」が発行を開始しました。JPYCは日本円と1対1で連動し、1円単位で1秒以内の国際送金が可能、しかも手数料は1円以下。これにより、小売企業は海外顧客からの支払いをリアルタイムで受け取り、為替変動の影響を最小限に抑えることができます。

ステーブルコインは、小売企業が「世界市場と直接つながる」ための通貨インフラへと進化しています。国境を越えた商取引が、いよいよ日常の延長線上に置かれようとしているのです。

用語解説:GENIUS法

GENIUS(ジーニアス)法は、米国のステーブルコインに関する法案の通称で、2025年7月に成立し、ステーブルコインを国家レベルの金融インフラとして正式に位置づけたものです。

米ドルと価値が連動するデジタル通貨(USDCなど)の法的安定性利用の透明性を確保することを目的としています。この法律により、ステーブルコインは正式な電子決済手段として認められ、銀行やフィンテック企業が安心してステーブルコインを発行・利用できる環境が整備されました。

この法律の成立により、米国ではブロックチェーンを基盤とした決済が急速に拡大し、国際送金や日常の商取引のコスト削減と速度向上が図られています。

普及の現実的なロードマップ:BtoBと国際送金が先行する変革の波

ステーブルコイン決済の利便性が小売の店頭で広く享受されるには、消費者がいかに簡単に日本円をステーブルコインに交換できるかという課題(使い勝手)が残ります。また、そもそも一般消費者が「ステーブルコインを使おう」という場面が現時点では想像しづらいかもしれません。

この利便性や妥当性の壁を鑑みると、ステーブルコインの普及は、まず「費用対効果が明確で、コスト削減効果の大きい領域」から加速するというのが現実的でしょう。

ステーブルコイン普及のためのロードマップ

法人間取引(BtoB)における手数料削減の先行インパクト

小売業の経営層にとって、ステーブルコインの即時かつ低コストというメリットが最も強く響くのは、消費者相手の小口決済よりも、法人間の取引(BtoB)です。

特に、国内でのサプライヤーへの仕入れ代金や、フランチャイズ店舗への売上送金など、高額かつ定常的な資金移動において、クレジットカードや電子マネーに支払う数%の手数料が丸ごと削減されます。

効果の明確さ

1件あたりの取引額が大きいため、手数料の削減額が数百円単位の小口決済と比べて圧倒的に大きく、数カ月の検証ですぐにROI(投資収益率)が見えやすいことが、法人による導入の強い動機となります。

「決済インフラを保有しない決済」のBtoB適用

JPYCのようなノンカストディ型の仕組みは、小売企業が自社で金融ライセンスを持つことなく、サプライヤーやグループ会社間での独自の決済網(デジタル共通通貨)を築くことを可能にします。

国際送金・為替取引コストの劇的な改善

小売業が海外サプライヤーからの仕入れや越境ECでの販売を行う際、従来の国際送金は非常に高コストで時間がかかりました。

ステーブルコインは、この為替取引に伴う高い送金手数料(銀行手数料)や為替スプレッド(通貨交換コスト)がほぼゼロになり、数日かかっていた着金が数秒で完了します。

したがって、普及の初期段階では、まずこの高コストな「国際送金の代替手段」としてステーブルコインの利用が爆発的に増加するのではないでしょうか。

この流れを理解し、まずは消費者向けの店頭決済よりも、自社のサプライチェーン(BtoB)や国際ビジネスにおける決済・送金インフラへの導入検証から始めることが、ステーブルコイン時代をリードする鍵となります。

まとめ|ステーブルコインは「未来の構想」ではなく「始まりつつある現実」

ステーブルコインをめぐる動きは、すでに実験や構想の段階を超えました。

米国では「GENIUS法」の成立によって法的な整備が完了し、USDCを利用したレストランアプリ「ブラックバード」のように、実店舗での決済とロイヤルティ施策がブロックチェーン上で実稼働しています。

日本でも2025年10月、JPYCが正式に発行され、コンビニ決済や大阪・関西万博の公式ウォレットなどへの導入が進みつつあります。

この二つの動きが示しているのは、世界の金融システムが「プログラムで動く通貨」へと転換しつつあるという事実です。

それは単なる技術革新ではなく、お金の概念そのものを再定義する社会変革です。

小売企業にとって、ステーブルコインは利益率を改善するためのツールであると同時に、顧客体験を進化させ、国際取引の壁を取り払うためのインフラでもあります。

そして何より重要なのは、この変化を「未来の話」として傍観するのか、「いまの経営課題」として取り込むのかという姿勢の違いです。

ステーブルコインが当たり前になった世界では、それぞれ以下のような変化が起こります。

  • 決済はコストではなく「利益創出の仕組み」に
  • ロイヤルティは「自動で運用される関係性設計」に
  • グローバル展開は「数秒で完結する商取引」に

未来を待つのではなく、その未来を設計する側に回ること

それこそが、ステーブルコイン時代における小売企業の新しいリーダーシップのあり方なのではないでしょうか。

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