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デジタルIDウォレットによる公的個人認証の未来

デジタルIDウォレットとは、スマートフォンなどの端末上で身分証や各種証明書、自身の属性情報などを管理する仕組みのことです。

従来の運転免許証などのカード類は財布で管理されることが多いことから、「ウォレット(財布)」の名称が用いられています。デジタル上でIDを管理するための入れ物ということですね。

これまでにもAppleやGoogleなどが自社の端末で「ウォレット」と名のつくアプリを提供していますので、それらをイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。しかし、これら既存の「ウォレット」は特定のプラットフォームに依存しており、「自分を自分自身が管理している」とは言い難い仕組みになっています。

「デジタルIDウォレット」は、特定のプラットフォームに依存せずに、ユーザーが自分自身で情報を管理できるようになることを目指しています。

デジタルIDウォレットに近い仕組みは、実は日本でもすでに始まっています。例えばマイナンバーカードは、「マイナポータル」というアプリが提供されており、マイナンバーが必要な各種申請を、スマートフォンのみで完結できるようになりました。

この記事では、こうした導入事例を取り上げながら、デジタルIDウォレットが作る未来や課題について考察していきます。

目次

世界で進むデジタルID導入の動き

国家主導のデジタルIDウォレット導入の仕組みは、世界的なトレンドでもあります。

特に積極的に推進しているのがEUです。EUでは、加盟国に対して「EUデジタルIDウォレット」の提供義務を「欧州デジタルID規則」の改正案に盛り込みました。同改正案は2024年以降に適用開始される見込みで、2030年までにEU人口の8割にデジタルIDを普及させることを目標としています。

これが実現されると、各種証明書の発行、住所変更、納税など、公的な手続きの利便性が大幅に向上します。また、公的なサービスだけでなく、銀行口座の開設など民間サービスでの利用も想定されています。

日本でも、内閣府が「Society 5.0(ソサエティ 5.0:サイバー空間と現実空間を高度に融合させた、未来の人間社会像)」を提唱しており、その1つの要素として注目されています。その第一歩として、前述のようにマイナンバーカードがアプリ化されました。

BMWデジタル・キーから見るデジタルIDウォレットの未来

デジタルIDウォレットが実現された未来を想像する上で、すでに実現しているサービスを例に見てみましょう。

自動車メーカーのBMWが提供するスマートキー「BMWデジタル・キー」は、スマートフォンを車両のバーチャルキーとして使用できる機能です。車の扉を解錠・施錠したり、エンジンを始動することができます。

デジタル・キーは、BMWのIDプロファイル(BMW ID)に紐付けられています。このIDプロファイルが、デジタルIDでいうところの「ユニークな識別子」に相当します。実世界での身分証と同じような役割を果たすのです。デジタル・キーは高度な暗号化技術で保護されているため、なりすましは極めて困難です。

BMWデジタル・キーは、解錠やエンジン始動などの限定的な用途ではありますが、デジタルIDが導入された未来を想像する上で身近な実例といえるでしょう。

プライバシーとセキュリティの担保が課題

デジタルIDウォレット導入により大幅に利便性が向上する一方で、プライバシーとセキュリティをいかに確保するかが大きな課題です。個人の識別子の管理が不十分だと、個人情報の流出リスクが高まるのは想像に難くありません。

日本でもプライバシー侵害に対する国民の根強い懸念が払拭されていないことが、マイナンバーカードの普及を妨げる大きな要因になっています。

そうしたマイナス面をカバーするために注目されているのが、ゼロ知識証明などの新技術の導入です。ゼロ知識証明とは、ある情報を知っていることを証明する一方で、その情報自体を露出させることなく行う証明の方式のことです。

例えば酒類を買う時などに、「成人であることを証明したいが、年齢は公開したくない」といった場面で活用できます。この場合は、「成人である」という情報のみをウォレットから公開するということが可能になります。一見シンプルな仕組みに思えますが、これを実現するためには、高度な暗号技術が必要になります。

これに、スマートフォンの多要素認証(知識情報やパスワード、生体認証)を組み合わせた所有者認証を行うことで、さらにセキュリティ面を強化します。

利便性の向上と、プライバシーやセキュリティリスクは相反する関係にあります。どこまでを許容するか、まだ議論の余地はあるでしょう。デジタルIDの普及に向けて、制度面の環境整備も急がれます。

まとめ

デジタルIDウォレットの導入には、利便性の飛躍的な向上が期待されます。今後の技術の発展により、世界的に導入の動きが加速していくでしょう。

一方で、プライバシーとセキュリティの確保が大きな課題として残っています。個人情報の適切な管理と、新たな暗号技術の活用により、この2つのニーズをバランス良く満たすことが重要になります。

ISO/IEC 18013や23220などの国際標準の動向など、制度面の環境整備と並行して、国民的な理解と合意形成も不可欠です。利便性とプライバシー保護の調和を見出せるかが、デジタルIDウォレットの普及の鍵を握ることになりそうです。

弊社マネーパートナーズソリューションズの小西が理事を務めております、デジタルアイデンティティ推進コンソーシアム(DIPC)では、定期的に活動報告のセミナーを行っております。

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